《第五章》後悔する犯罪者の霊 / 天国と地獄《Ⅰ》

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(1)ヴェルジュ――パリの大司教を殺した神父

 一八五七年一月三日、パリの大司教シブールが、サンテチエンヌ・デュ・モン教会から出てきたときに、ヴェルジェという名の神父に襲われて命を落とした。ヴェルジェは、死刑の判決を受け、一月の三十日に死刑が執行された。最後の瞬間まで、彼は、悔悟(かいご)も反省もせず、いっさいの感情を表さなかった。

 死刑が執行された日に招霊され、次のようなメッセージを送ってきた。

――招霊します……。

 「まだ体の中にとどまっているみたいです」

――あなたの魂は、まだ体から完全に離脱していないのですか?

 「はい……、不安です……、よく分からない……。自分を取り戻すまで待ってください……。私はまだ死んでいないのでしょう?」

――自分のやったことを後悔していますか?

 「殺したのは間違いだった。しかし、あいつの侮辱(ぶじょく)に、どうしても我慢ができなかったんだ……。今日はこれで帰る」

――どうして帰ってしまうのですか?

 「あいつに会うのが怖いんだ。復讐されては、かなわんからな」

――でも、もうあなたは死んでいるのですよ。殺されるのを心配することはないのです。

 「何が言いたいんだ! あんたが言っていることが正しいという根拠でもあるのか? ああ、私はどこにいるんだろう? 気でも狂ったのだろうか?」

――落ち着いてください。

 「『落ち着け』と言ったって無理だ! 気が狂ってしまったんだから。待ってくれ……。もう少しすれば、いろいろ分かるはずだから」

――祈ってごらんなさい。そうすれば、考えがはっきりしてきますよ。

 「ああ、恐ろしい。とても祈れやしない」

――祈りなさい。神の慈悲は偉大なのですから。私たちも一緒に祈りましょう。

 「ああ、確かに神の慈悲は無限です。いつも、そう思ってきたんだ……」

――状況が、だいぶ、のみ込めてきたようですね。

 「待って……。まわりの様子が、あまりにもすさまじくて、何が何だか、よく分からない」

――あなたの殺した人が見えますか?

 「彼の声が聞えるような気がする。こんなふうに言っている『恨んではいませんよ』と。ああ、そんなことがあるはずはない……。
 気が狂ってしまったんだ! だって、自分の体が向こうに見えるのだから。そばには頭が転がっている……。なのに、自分が生きているみたいに感じるんだ……。どうして、こんなことが……。地面と空のあいだにいるみたいな感じがする……。首の上に落ちてくる刃物の冷たささえ感じられる……。
 ああ、死ぬのが怖い! まわりに霊がうようよいるみたいだ……。同情の目で、私を見ている……。何か話しかけてくるが、何を言っているのか、よく分からない……」

――それらの霊たちの中に、あなたの犯罪にかかわりのある霊はいますか?

 「私が恐れる唯一の霊、つまり、私が殺した人の霊がいるような……」

――自分の過去世は思い出せますか?

 「だめだ。頭がぼんやりしている……。まるで夢の中にいるみたいだ。何とかして、自分を取り戻さなくては」

 それから三日後に。

――だいぶ様子がはっきりしてきたでしょう。

 「もう地上にいないということが分かりました。そのことは納得しました。
 ですが、自分が犯した罪は後悔しています。
 しかし、私は、霊として、より自由になってきました。『何度も生まれ変わることで、少しずつ大事な知識を得、そして、完全になっていくのだ』ということが分かりました」

――あなたの犯した犯罪のせいで罰を受けているのですか?

 「はい。自分の犯した罪を後悔し、そのことで苦しんでいます」

――どんな罰を受けているのですか?

 「自分の過ちに気づき、神に許しを乞うています。それが罰です。『神を充分に信じていなかった』ということで苦しんでいます。それもまた罰なのです。また、『同胞の命を縮めるべきではなかった』ということが分かり、それで苦しんでいます。間違いを犯すことによって自分自身の向上を遅らせたために、たいへん後悔しており、それもまた罰のうちなのです。
 『殺すことによっては決して目的は達せられない』と、良心が教えてくれていたにもかかわらず、慢心と嫉妬(しっと)に支配されて、あのような行為に及んでしまったわけなのです。私は間違っていたのです。そのことを悔やんでいます。人間は、常に、欲望を統御すべく努力する必要があるのに、私には、それができませんでした」

――われわれが、あなたを招霊したときに、どんな感じがしましたか?

 「うれしいと同時に怖くもありました」

――なぜ、うれしく、そして怖かったのでしょうか?

 「人間たちと対話ができ、私の過ちを告白することで、自分の過ちの一部にせよ、償うことができるから、うれしかったのです。
 一方で、『殺人を犯した』という事実に向き合わなければならないので、怖いという気持ちが湧いたのでしょう」

――また地上に生まれたいと思いますか?

 「ええ、すでにお願いしてあります。今度は、自分が殺される側に身を置き、恐怖を味わう必要を感じるからです」

 シブールも招霊され、「自分を殺した男を許している」ということ、「彼が善に戻れるように祈っている」ということを告げてくれた。さらに、「彼の苦しみを、より大きなものにしないために、彼の前には姿を現さないようにしている」と言っていた。「自分に会うのを恐れているということ自体が、すでに罰になっているから」ということであった。

――(シブールの霊に対して)殺人を犯した、あの男は、今回、地上に転生することを決意したときに、殺人者になることも選んでいたのでしょうか?

 「いいえ。闘争的な人生を選択した時点で、『人を殺すことになるかもしれない』ということは分かっていましたが、しかし、それを実行に移すことになるかどうかは分かっていませんでした。自分の中でも葛藤があったのです」

 ヴェルジェの死の瞬間の状況は、激しい死に方をした人に、ほぼ共通するものである。魂と肉体の分離が急には行われないため、茫然自失の状態にあり、自分が死んでいるのか生きているのかさえ分からないのである。
 大司教の姿はヴェルジェには見えないように取り計らわれた。すでに、充分、後悔していたからである。だが、ほとんどの場合、殺人者は犠牲者の視線に付きまとわれることになる。
 重大な犯罪であったにもかかわらず、ヴェルジェは、生前、何の後悔もしていなかった。したがって、永遠とも思われる刑罰を受けても不思議ではなかったのである。
 しかし、彼の場合、地上を去った瞬間に後悔が始まった。過去を深く反省し、それを償いたいと真剣に願ったのである。
 苦しみのあまり、そうしたのではない。なぜなら、まだ苦しむ前に、そう思ったからである。地上にいるあいだには聞かなかった良心の声を聞いたということなのである。どうして、それが考慮されないことがあろうか?
 地上にいるあいだに悔い改めれば地獄に行かないのが事実だとしたら、死後に霊界で悔い改めた場合も地獄に行かなくては住むのは、当然ではないだろうか? 死ぬ前の人間に対して慈悲深い神が、どうして、死んだあとの人間に対して慈悲深くないことがあるだろうか?
 最後まで悔い改めようとしなかった犯罪者が、死後、ただちに、驚くべき心境の大変化を遂げることがある。あの世に還っただけで、自分の行為がいかに間違っていたかを一瞬で悟れる者たちがいるのだ。
 ただし、これは一般的に見られることではない。もし一般的に見られるのだとしたら、悪霊の存在など、ありえないからである。多くの場合、悔悟はなかなかやってこない。そして、その分、苦しみも長引くわけである。
 「傲慢であるがゆえに、自分の非を認めて謝るということができず、一生、悪の中にとどまりつづける」ということは、よくあることである。
 また、「肉体がヴェールのように覆いかぶさっているため、なかなか霊的な見方ができない」というのが地上の人間の限界である。このヴェールが剥ぎれ落ちれば、一瞬で光に照らされ、まるで憑(つ)きものが落ちたように正気に戻るということがあり得るのである。正しい感じ方ができるようになれば、それに応じた境涯が開かれる。
 それに対して、死んだあとも強情を張りつづければ、悪霊の仲間入りをするほかない。まっとうな道に戻るには、まだまだ試練を受ける必要があるということなのである。

(2)ブノワ――僧たちを迫害した聖職者



(3)ジャック・ラトゥール――殺人の咎で死刑になった男性


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