《第四章》自殺後の試練を受ける霊 / 天国と地獄《Ⅱ》

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(1)婚約者の不実に激して自殺した男性――ルイと縫い子

 七、八カ月前から、ルイ・という靴(くつ)職人が、ヴィクトリーヌ・という縫い子に言い寄っていた。そして、すでに結婚の告示がなされたことから分かるように、ごく近いうちに二人は結婚することになっていた。事態がここまで進み、二人はもう結婚したも同然の気分になっていたし、また、節約の意味もあって、ルイは毎日、彼女のところに食事をしに来ていた。
 ある日、いつものようにルイがヴィクトリーヌのところで夕食をとっているときに、二人のあいだに些細(ささい)なことから口論が持ち上がった。二人とも譲らず、ついにルイが怒って椅子(いす)から立ち上がり、「もう二度と来るものか!」と捨て台詞を吐(は)いて出ていった。
 翌日になると、それでもルイは謝りに来た。夜のあいだに頭を冷やしたのだ。しかし、すっかり頑なになっていたヴィクトリーヌは、ルイが抗議しても、泣いても、絶望してみせても、頑(がん)としてはねつけた。何をしても説得に応じなかったのである。
 仲たがいから数日たった。ルイは、ヴィクトリーヌの気持ちもそろそろ治まっただろうと思い、これが最後のつもりで彼女を説得しに行った。彼女の家に着き、二人のあいだで決めていたやり方でドアを叩(たた)いた。しかし、ドアは開けられなかった。そこでルイは、ドア越しに、また新たに懇願(こんがん)し、新たに抗議した。だが、何をしても、すっかりかたくなになってしまったヴィクトリーヌは心を開かなかった。
 「そうか、そんなに意地を張るなら、もういい。分かったよ。これでおしまいさ! 永久にお別れだ。俺以上におまえを愛してくれる別の男を見つけるんだな! それじゃあな!」
 それと同時に、ヴィクトリーヌは押し殺されたうめき声のようなものを聞いた。それから、ドアを激しくこするような音がして、その後、完全に静かになった。
 ヴィクトリーヌは、ルイはドアの前で待つつもりなのだと思い、ルイがそこにいるかぎり、絶対に外には出まいと思った。
 十五分ほどしたとき、借家人の一人が明かりを持って踊り場を通りかかった。そして、びっくりした声を上げ、「誰か来てくれ!」と叫んだ。隣人たちが駆けつけ、ヴィクトリーヌもドアを開けて出ていったが、そこにルイが青ざめて倒れているのを見て恐怖の叫びを上げた。
 みんなが何とか助けようと試みたが、やがてそれが無駄であることを悟(さと)った。すでにルイはこときれていたのである。ナイフは心臓まで達していた。

 一八五八年八月、パリ霊実在主義協会にて。

――(聖ルイの霊に対して)ヴィクトリーヌは、図らずも恋人を死に至らしめることになったわけですが、彼女に責任はあるのでしょうか。

 「あります。彼女はルイを愛していなかったからです」

――では、悲劇を避けるためだったら、嫌気のさした男とでも結婚しなければならなかったのでしょうか?

 「彼女はルイと別れられるよう、機会をずっとうかがっていたのですが、実は二人の関係が始まった時点からそうだったのです」

――ということは、「彼女はルイのことを愛してもいないのに、関係を続けた」ということですか? それではルイを弄(もて)んだことになり、そのためにルイは死んだのですか?

 「まさしくそのとおりです」

――彼女の責任は、この場合、彼女の過ちの度合いに比例して大きくなると思うのです。意図的にルイを死なせたという場合に比べれば、まだ責任は小さいのではないでしょか?

 「それはまったく明らかです」

――「ヴィクトリーヌのかたくなさを前にして錯乱した結果、自殺した」ということですから、ルイの罪はそれほど深くないと思えるのですが。

 「そうですね。ルイの自殺は、愛ゆえの自殺ですから、卑怯(ひきょう)であるがゆえに人生から逃げようとして自殺したケースに比べれば、神の目からして、それほど罪深いものとはされないでしょう」

 次に、ルイの霊を呼んで、いろいろと聞いてみた。

――自分のしたことをどう思っていますか?

 「ヴィクトリーヌは不実な女です。彼女のために自殺するなんて完全な間違いでした。あれはそんなことに値しない女です」

――つまり、彼女はあなたを愛していなかったのですか?

 「はい、愛していませんでした。最初は、愛していると思い込んでいたようですが。でも、それは錯覚だったのです。私が騒ぎ立てたことで、彼女はそのことに気がつきました。そこで、それを理由にして私をお払い箱にしようとしたわけです」

――で、あなたはどうなのですか? 彼女を本当に愛していたのですか?

 「むしろ『彼女を欲していた』ということではないでしょうか。もし、本当に彼女を愛していたのなら、彼女に苦痛を与えたいとは思わなかったはずですから」

――あなたが本当に死ぬ気でいたと知っていた場合でも、彼女は拒みつづけていたでしょうか?

 「分かりません。しかし、そうは思いたくはありません。というのも、根は優しい女だからです。もし、知っていてそうしていたら、彼女はきっとものすごく不幸になっていたでしょう。かえってあんなふうになったほうが、彼女にとってはいいことだったのです」

――彼女の家のドアの前に行ったとき、もし拒まれたら死んでやろうと思っていましたか?

 「いいえ思っていませんでした。あれほど強情を張るとは思っていなかったからです。彼女がかたくなになったために、私の感情が激したのです」

――あなたが自殺を悔やんでいるのは、「ヴィクトリーヌがそれに値しない女だったから」というだけの理由によるようですが、それ以外に感じていることはないのですか?

 「現時点では、ありません。まだ気持ちが混乱しているのです。ドアのそばにいるように思われるのです。他のことはうまく考えられません」

――そのうち、分かるようになるでしょうか?

 「たぶん、混乱が治まれば分かるようになると思います。

 私がしたことはよくないことです。彼女はそっとしておいてやる必要があると思います。私が弱かったのです。それを思うとつらいです……。男は、情熱にとらわれて盲目(もうもく)になると、ばかなことをしでかすものです。あとになってみないと、それがどれほどばかげているかが分からないのです」

――あなたは「つらい」とおっしゃいましたが、どんな感じなのですか?

 「命を縮めたのは間違いだったのです。あんなことはすべきではありませんでした。まだ死ぬべき時期ではなかったので、すべてを耐える必要があったのです。
 いまは不幸を感じています。苦しいのです。いまだに彼女のせいで苦しんでいるような気がします。いまだに、あの、つれない女の家のドアの前にいるような気がするのです。
 もうその話はやめてください。そのことは考えたくないのです。苦しくて、そのことはもうこれ以上考えられません。さようなら」

 ここには、またしても、新たな配分的正義の例が見られるように思う。すなわち「罪を犯した者は、その罪の程度に応じて罰せられる」ということである。
 この例では、まず悪いと思われるのは娘のほうである。自分が愛していない男が自分を愛しているのを見て、その愛を弄(もてあそ)んだ。したがって、その責任はほとんど彼女のほうにあると言えよう。
 男に関して言えば、彼は自分がつくり出した苦しみによって罰せられた。しかし、苦しみといっても、それほどひどい苦しみではない。というのも、彼は、一時的な興奮に身を任せて、軽率に行動してしまっただけであり、じっくりと考えて、人生の試練から逃れるために自殺したのではないからである。

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(2)高学歴の無神論者の霊の苦しみ――J・D氏


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(3)破産が原因で自殺した男性の霊――フェリシアン氏



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(4)前世で犯した罪の記憶に苛まれて自殺した男の霊――アントワーヌ・ベル




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